北海道新幹線の札幌延伸はいったん凍結し、中止も含めた道民議論で再検討を

2019年9月13日

日本共産党北海道委員会

 

  • はじめに

 北海道新幹線が開通してから3年以上が経ちましたが、赤字が年間100億円近くにも上ることが明らかになりました。JR北海道は「鉄道事業を抜本的に見直す方針」を発表し、赤字を理由に地方路線を次々と切り捨てようとする一方で、それ以上に赤字が大きい新幹線は検証もされないまま延伸工事が進められることに、道民から疑問の声も上がっています。

 日本共産党はこれまでも北海道新幹線について、こうした甘い採算の見通しだけでなく、過大な地元の財政負担、環境破壊の問題、並行在来線の存続問題などを指摘し、着工・延伸「先にありき」ではなく、道民の論議を深めて工事の再検討や抜本的な見直しを提案してきました。これらの問題がいまだ解決されていないばかりか、さらなる赤字や地元負担の増大の可能性、トンネル工事に伴う大量の有害土壌の発生も明るみに出るなど、問題はさらに深刻さを増しています。これらを放置したまま札幌延伸を進めるなら道民の生活と経済にとって重大な禍根を残すことになりかねません。

 日本共産党は、次の6つの問題点について道民の議論を呼びかけるとともに、延伸工事はいったん凍結し、中止も含めて再検討するよう、提案します。

 

【2】道民参加で議論が必要な6つの問題

 

① 見通しを超える巨額の新幹線路線の赤字

 第一に、現在新函館北斗駅まで営業している北海道新幹線が巨額の赤字を計上している問題です。JR北海道は、新函館北斗まで開業した際の赤字見込み額を当初47億円としていましたが、開業初年の2016年度に想定を超える54億円の赤字を計上、2017年度は98億7700万円と、前年度比1・8倍に大きく膨らみ、2018年度も95億7300万円の赤字です。これは、JR北海道のすべての線区で最大の赤字額であり、二番目に赤字額の大きい函館―長万部間(2018年度で約66億)を大きく上回るものです。

 JR北海道は、2019年10月から全路線の運賃の大幅値上げを一方的に決めましたが、もともとJR北海道の経常赤字が大きく拡大したのは、北海道新幹線の開業した2016年度以降であり、2018年は111億円に達するなど、3年連続で新幹線の赤字額と同等の経常赤字を出しました。新幹線がJR北海道全体の経営を大きく圧迫していることは明らかです。4月に発表された長期「JRグループ長期経営ビジョン」は、連結営業利益の赤字(18年度418億円)を31年度までに収支改善するとしていますが、北海道新幹線(新青森-新函館間)の赤字についてJR北海道幹部は、「新幹線は劇的に収支が改善することはない」(2019年9月4日)と明言しています。新幹線の赤字に関して納得のできる検証も道民への説明もないまま、収支改善の見込みがない新幹線の延伸計画をこのまま進めてはなりません。

 

② 「札幌延伸効果」のずさんな需要予測

 さらに、札幌延伸後の需要予測が、きわめてずさんです。建設主体である政府の直近の需要予測は、2012年に提出された交通政策審議会の「収支採算性及び投資効果の確認に関する参考資料」です。ここでは、札幌延伸の整備年度とされる2035年(当初予定)時の道央-関東の交通機関の利用分担率は、「新函館・札幌間を整備しなかった場合」は、「鉄道7%、航空機91%」であるのに対し、「整備した場合」は、「道央-関東:鉄道28%、航空機70%」になるとし、鉄道利用者の割合が大きく伸びるとしています。

 しかし、新幹線利用での所要時間は、新函館北斗-東京ですでに4時間に達しており、札幌-東京はさらに多くの時間を要します。運賃でも、現状は新函館北斗-東京で片道22,690円(2019年9月現在)であり、札幌-東京間はそれを上回ることになります。航空機が所要時間でも運賃でも新幹線よりも大きく優位であることを考慮すれば、鉄道利用者数が大きく増大するとの予測は根拠が薄弱な「期待」でしかない可能性があります。

 この需要予測の根拠について、2018年に畠山和也・前衆議が国土交通省に質したところ、「予測はJR北海道によるもの」として、まともな説明責任を果たしていません。建設主体である国は、巨大公共事業を継続させる前に、客観的な根拠に基づく予測を責任を持って道民に提示すべきです。

 

③ 新幹線赤字に目をつぶったまま地方路線を切り捨てる問題

 JR北海道は2016年、10路線13線区が、赤字を理由に「単独で維持困難な線区」であると発表しました。中でも5つの区間については、国の「支援の対象外」であるとして廃線を要求し、石勝線夕張支線の廃線と、札沼線(北海道医療大学-新十津川)の廃線合意がされました。ところが、2018年度決算では、北海道新幹線の赤字は95億7300万円に上るのに、5区間の赤字額合計が約25億9100万円です。大きな赤字を出している新幹線の延伸に前のめりになっていながら、赤字を口実に地方路線の切り捨てを進めることは、論理的に破綻しています。

 地方の鉄路は、広域的な北海道社会を支える不可欠な存在です。高校生や若者の通学、高齢者の通院など地域住民の生活を支える役割は大きく、近年は外国人らの観光客の乗車も増えています。また鉄道貨物は、北見から季節運行されているタマネギ列車をはじめ、農産物を本州へ大量に輸出する役割を果たしています。2017年からはビール各社が共同で釧路方面へJR貨物による輸送も始めています。トラック輸送のドライバー不足が深刻さを増す中、地方の鉄路の役割は今後ますます重要になります。環境負荷が少ないため、世界的に鉄道輸送への転換(モーダルシフト)も進められています。

 JR北海道は、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」で、「事業を営む地域の発展を図る」と定められた事業体であり、地方路線の維持に対して社会的責任があります。国もまた、分割民営化の際に経営安定基金の運用益で赤字を補填する仕組みを作った責任があり、JR北海道の唯一の株主としても道内鉄道網を公共インフラとして位置づけて、維持する責任があります。そういった責任を投げ捨てたまま、新幹線延伸を進めることは認められません。

 

④ 建設費増大の危険-ツケは道民に

 北海道新幹線の建設費にも、大きな問題があります。北海道新幹線の建設には、1兆6700億円もの巨額の税金が投入される計画で、建設財源はJRからの貸付料収入をあて、残りが国と都道府県が2対1(札幌市内分は、地方分は道と市で折半する)となるため、自治体には重い負担がのしかかります。北陸新幹線と九州新幹線では、建設費が当初よりもそれぞれ2263億円増、1188億円増と2割前後も増額すると国交省が試算し、追加の財政負担を迫られています。整備新幹線自体の財源不足から、「新区間の必要性も含め、事業を冷静に見直す時期に来ている」(朝日新聞2018年10月19日付)、「新幹線の位置づけを白紙から議論する時だ」(同紙2019年8月19日付)と指摘されるほどです。

 北海道新幹線の建設は、2005年度から2017年度にかけて、すでに約1160億円が地方自治体から支出されていますが、開業した北海道新幹線の新青森―新函館北斗間の建設費も、当初見込みの4700億円から5783億円と23%も増えました。札幌延伸についても、札幌市内のトンネルの大幅延長などにより、建設費増大は必至です。他の整備新幹線の同様の増額となれば、総額約2兆円の規模ともなる公共工事が、財源の裏付けがないままにすすめられる異常事態となります。さらに、新しく建設される駅舎の費用や、駅周辺の開発費用は含まれておらず、自治体負担がさらに増大する危険があります。その上、完成した施設の維持等にも多額の費用が必要となり、将来世代に重い犠牲を強いることになりかねません。建設に伴う道民負担の全容をすみやかに提示するべきです。

 

⑤ 要対策土を含む残土処分の問題と騒音被害・自然破壊の懸念

 札幌延伸では、211kmのうち80%の約169kmもの膨大な距離がトンネルで占められます。その際に、工事で発生する残土(掘削で発生する土砂)が1947万立方メートル(札幌ドーム12個分)と途方もない分量になりますが、処分地は半分しか決まっていません。そればかりか、厳重な環境対策が必要な、ヒ素などの有害物質を含む「要対策土」が残土の約3割を占め、すでに八雲、長万部や倶知安、赤井川で発生しており、とりわけ札幌市内の工事では残土全体の約半分の110万~120万立方メートルになることが判明しています。

 「要対策土」の受け入れ候補地とされた札幌市手稲区金山と厚別区山本の住民説明会では、参加した住民からの強い反発が起こり、秋元克広市長は事前調査を一時保留としました。専門家からも、両候補地について、手稲は住宅地に隣接しているだけでなく小学校や地域の浄水場の真上に位置していること、厚別も残土管理が困難な軟弱地盤であることが指摘され、「2030年の開業ありき」で、住民への影響を過小評価されているのではないかと懸念が示されています。他にも、鉄道・運輸機構は、八雲町のトンネル工事で出た「要対策土」の受け入れを北斗市に要請。地元では故郷が汚染される不安がぬぐえないと、有志による市民の会が結成され、市民が強く反対しています。

 膨大な「要対策土」の処分地は決まっておらず、延伸工事全体でどれほど発生するのか、その対策にどれくらいの費用がかかるのかも、明らかではありません。残土処分ができなかった場合の工事の遅延や中断の可能性も指摘されています。国はこのまま、工事を進めるべきではありません。

 環境に対する問題は、他にも積みあがっています。北陸新幹線では、2016年度に長野-金沢間で騒音測定した51カ所のうち、約7割で環境基準(住宅地で70%デシベル以下)を超過しており、住環境へ影響を与えています。トンネル工事でも、新潟県糸魚川市で湧水など20の地下水源が枯れています。北海道新幹線の札幌延伸も、自然豊かな支笏洞爺国立公園(羊蹄山山麓)の隣接地域を通過することから、自然環境への被害が懸念されます。その上、これほど長いトンネル内の走行中に、地震をはじめとする災害や事故、火災から安全を確保できるのか、大きな不安もあります。

 環境への影響や安全性の確保について十分な検証と対策、住民の合意のないままに工事を進めていいのでしょうか。

 

⑥ 並行在来線(函館-小樽間)が切り捨てられる問題

 新幹線延伸は、並行在来線(函館-小樽間)の経営分離を前提として進められています。経営分離は、引き受ける会社の方針や経営規模によっては鉄路の廃止につながる重大な問題です。並行在来線は地域住民の生活を支える「足」としての役割を果たし、長距離の旅客輸送を担う新幹線とははじめから役割が異なります。また、JR貨物のコンテナ列車も運行しており、北海道と本州を結ぶ貨物輸送の大動脈として経済を支えています。青函トンネルの新幹線を減速させてでも運行されるほどの役割を担っており、安易な切り捨ては認められません。

 そもそも、経営分離という着工の「条件」は、法律の定めではなく、自公政権による政府・与党合意が元になっているだけのものです。また、同じ並行在来線であっても利用者の多い小樽-札幌間は経営分離しないというJR北海道の身勝手な経営態度にも問題があります。有珠山の噴火をはじめとした大規模な自然災害における代替路線としての役割も欠かせません。

 沿線住民の間では存続を求める声が根強く上がっており、地元住民の合意がない一方的な経営分離は認められません。また北海道全体の暮らしや経済に甚大な影響を与える問題でもあり、道民全体の広範な議論と合意が必要ではないでしょうか。

 

【3】日本共産党の提案

 2018年6~7月の道民世論調査(道新)では、札幌延伸について「利用が大きく増え延伸効果が期待できる」が28%であるのに対して、「利用は限られる」は30%、「地方切り捨てにつながりかねない」が17%に上るほか、「あまり関心がない」を含めると、消極的な道民は6割を超えています。

 いったん始まった巨大公共事業であっても中止させることができます。1984年に着工された日高横断道路は、総工費の増大と難工事のために国が2003年に建設中止させました。同じく国による千歳川放水路計画は1982年に4800億円の巨費で計画されましたが、自然環境や漁業への影響が甚大であるとして建設反対を求める声が高まる中、1999年に事実上中止されました。同じく1999年には「時のアセスメント」で士幌高原道路が建設中止されました。すでに多額の建設費を投入した公共事業であっても、建設費や環境への影響、必要性などは時代に合わせて検証し、事業計画を見直す必要があります。

 日本共産党は、北海道新幹線の延伸についても、整備新幹線を国家的事業として推進し建設を認可した国が責任を持って問題を検証し、見直し作業に入るとともに、道民の議論に必要な資料を提出し、様々な疑問に率直に答えるよう求めます。工事については一時的に中断し、見直し作業や道民の議論の結果をその後の計画に反映させるものとし、中止・凍結も選択肢とするよう求めます。JR北海道には、新幹線の延伸に固執せず、道民の移動する権利と地域の生活を守り発展を図るために、地方路線の維持に向けて社会的責任を果たすよう求めます。