本書は、「画一的で効率性を重視した『中央の発想』」に対し、「辺境」―中央アジア諸国、沖縄とともに、特に北海道―が中央から距離のある地域だからこその「もう一つの柔軟で新鮮な発想とヒント」を、「共生の思想」、「連帯のダイナミズム」を含む視点からの実践例の紹介・分析を通じて提起している。

 小磯修二氏は、北海道開発庁等を経た釧路公立大学(現在名誉教授)における地域開発政策の研究者(元学長)であるとともに、主にJICAでの国際活動を含め自ら多様な活動を特に北海道各地で実践してきたこととその理論化で、幅広く評価されていることでも知られている。

ニセコ・釧路市の地域力発揚

 北海道の事例として、ニセコ地域での多文化共生による地域力向上(乱開発や地域コミュニティ力の衰退という影の面の指摘があることも触れているが)、釧路市での生活保護の自立支援にむけた挑戦―基幹産業であった漁業の製網作業を代表的事例とする「中間就労」という支援スキームの創設、これは、草の根から生れた内発的手法であり「福祉政策から地域政策」への発展がある。

 ブラックアウトの教訓―「原発ありきの供給体制へのこだわり」も含めた大規模一極集中の経済効率重視に対し、地域の特性に応じたエネルギーシステムの構築、苫東環境コモンズの実践―などの紹介・分析は興味深い。

 また、道州制検討会にも参加したが「残念ながら期待外れであった」との記述もある。何故か? 狭域自治論や重層的自治圏域論の評価は? を求めるのは本書の主目的からして無理な注文かもしれない。

図書館活動を通じての地元文化の発信

 もう一つやや詳しく紹介したいのは、「地元文化の発信―デジタル書籍から広がる連帯の輪」のテーマで、札幌市中央図書館と地元出版社16社の連携による電子書籍化の取り組みの分析である。公立図書館のイニシアティブと中小出版社の「北海道の分化を豊かにする」という発信であり、「公共の思想」に裏打ちされた「連帯」の力であろう。周知のように北海道はオホーツク地域や栗山町などに代表される社会教育活動や図書館活動の先進地である。

 2020年は図書館法公布施行70周年でもあった。指定管理者制への移行が進行している今日、改めて公共図書館の意義と役割を創造的に検討することが求められる。

 本書でも取り挙げられているフィンランド万人権に基礎を持つ、「文化創造のための公共空間」としての公共図書館の紹介(小泉公乃氏)や「住民参加の図書館づくり」(山本健慈氏)等、「あるべき図書館像」を特集した『住民と自治』20年12月号と、土地所有の公共性を入会制の今日的評価の視点からも紹介している野田公夫『未来を語る日本農業史』を是非お薦めしたい。

 最後に、私的なことであるが、小磯氏は大学(京大法)の同窓で、北海道JICAの仕事でご一緒したことも思い出し、久しぶりに皆さんに紙面を通じてお会いでき感謝です。

(河合博司 北海道地域自治体問題研究所顧問・酪農大名誉教授)

――「ほっかい新報」1月17日号より――