2019年夏の参院選で、札幌市で街頭演説中の安倍首相(当時)にヤジを飛ばした市民らが、道警に排除された。ヤジは憲法で保障された国民の権利である。「表現の自由」の侵害に危機感を抱いたHBCの取材班が丹念に取材を重ね、排除した側に正当性がなかったことを証明したドキュメンタリー「ヤジと民主主義」(20年制作)は、日本ジャーナリスト会議賞などを受賞した。

 今年3月、札幌地裁が「警察官による排除は、2人の表現の自由を違法に侵害した」と認定した「画期的勝利」の背景に、このHBC報道局の奮闘があったことは、誰もが認めざるをえない事実。今回出版された本は、今年3月までの取材成果をまとめたものである。

 読後感をあえて一言では「一服の清涼感」か、それとも「ダメなものはダメ」と言い切る”正義感”であろうか。

 取材班を率いた山崎裕侍氏は何度もこう繰り返す――今回(我々が)何の為に闘ったのかといえば、それは民主主義を守るためである。――自由と民主主義を求める声を上げた人たちは、もしかしたら自分かもしれない。…誰かの自由が奪われるのを放っておくと、最後は自分の自由を奪われることになる。だから「たかがヤジくらいで」と片づけてはならない。――権力を監視するのが役割である報道機関が、「おかしいことはおかしい」と言えなかったら、その先にどんな社会が待ち受けているのだろうか。

 表現の自由の危機に対する強い問題意識が、全編から私たちに問いかけてくるのである。

 山崎氏が「道警を批判できなくなった記者クラブ」や、当局言いなりのいわゆる「発表ジャーナリズム」の実態などについても、厳しい批判を行っているのも重要である。

 「吠えない犬になった」と冷笑され続けてきたジャーナリズムが、本気で吠えたらどうなるか? それを証明したのが「ヤジと民主主義」という報道番組であったことをこの本は教えてくれる。多くの人たちに読んで欲しい一冊である。

(三上博介)

 ころから 1800円+税