食料自給率「38%」という危機的な数字が、食料品の高騰という形で日常生活に影を落としています。酪農家の離農が北海道内では28年ぶりの高水準となり、東海・近畿でも減少率が昨年比で10%を超える事態になっています。日本の「食」を支える生産者が経営を継続できなくなっています。道内では今年、採卵鶏の約2割が鳥インフルエンザのために殺処分され、卵が手に入らない事態も続いています。

 大規模で効率偏重な経営を優先させることが、本当に消費者にとってもいいのか、考えることが必要になっています。

行き詰まる工場型農業と遺伝子組み換え

 6月10日、北海道食といのちの会はOKシードプロジェクトの印鑰(いんやく)智哉事務局長を招いての講演会「未来の食はどうあるべきか? 『ゲノム編集』フードテックを考える」を開催しました。

 印鑰氏は「食」をめぐる様々な課題―工業型農業、遺伝子組み換え、「ゲノム編集」、フードテックーそして、解決の展望まで縦横無尽に語りました。同氏は鳥インフルエンザの拡大はコントロールが不可能な状態になっており、野生の鳥以外の哺乳類などにも影響が出始めていると述べ、鳥インフルエンザの要因として「ファクトリーファーミング(工場式畜産)は『3密』そのもので、ウイルスが繁殖しやすく、恐ろしい感染症を生んでしまう」と指摘しました。

 遺伝子組み換え食品については、実現できたのは除草剤耐性と害虫抵抗性という2つだけだったが、それも農薬が効かない雑草や殺虫成分が効かない害虫の出現によってメリットが消え、遺伝子組み換え作物の耕作面積は行き詰まっている、と述べました。

 日本政府は、「ゲノム編集」は自然界や従来の品種改良で起きる変化と同等であり、安全性審査は必要ないとしています。しかし、印鑰氏は「ゲノム編集食品を実際に食べてみての安全性の確認の研究がされていない」ことをあげ、新しいアレルギーが発症する可能性も述べるなど、安全性を保障するための手立てがとられていない問題を指摘しました。

 動植物の幹細胞を工場などのタンクで培養するなどの新技術で、食糧危機を解決すると言われているフードテックに対しても警鐘を鳴らしました。細胞を培養するためには大豆やトウモロコシなどから栄養を抽出することが必要となるため、大豆やトウモロコシなどを生産する大規模なモノカルチャーが不可欠になると指摘しました。

有機農業こそ危機打開の解決策

 印鑰氏は有機農業こそが、危機を打開する解決策になると語りました。アメリカでも「環境再生型農業」といって、土の流出を抑えるために化学肥料を減らすなどしている農家が増えて、経営の改善につながっている例などが紹介されました。

 そして、一部の多国籍企業が特許を取得することで「タネ」を独占するような事態を許さずに、世界中の多様な「タネ」を守ることの大切さを強調しました。

 また、地域から「食」を守るためにも千葉県いすみ市が学校給食には地域の有機米を提供することにして、地域の農家も子どもたちの健康も守る取り組みをしていることや、愛媛県今治市で学校給食での遺伝子組み換え食品不使用などを定めた「食と農のまちづくり条例」がつくられていることも紹介し、地域での取り組みの大事さも語りました。

(「ほっかい新報」6月18日付より)