NPO法人ゆいネット北海道が運営する「性暴力被害者センター北海道(SACRACH さくらこ)」10周年を記念して、講演会「これからの性教育」が9日行われました。主催者あいさつで須田布美子理事長(弁護士)は10年間の活動を通して、子どもの性被害が非常に多く、それが性被害だとわからぬまま長年苦しんでいる方が多いこと、そのことから早期の性教育が必要だと気付き、今回テーマに選んだと述べました。

幸せにつながる性教育へ

 私立高校で保健体育教諭として25年勤務し、退職後は一橋大学などで「セクソロジー」(性科学)の講師を務めた村瀬幸浩さんが「しあわせに生きるための性教育」と題して講演を行いました。村瀬さんはこれまでも今も「性について知るとよくないことをするのではないか」という子どもへの不信感や、性否定があるが、これまでの性教育は「不幸にならないための教育」であり、これから目指すのは「幸せに生きるための学び」だと強調しました。

 いまの性教育の問題点として、男女が別々に性を学んでおり、互いの体の仕組みを知らなすぎる、特に男子への性教育が必要であること、統一教会や自民党の右派、マスコミを巻き込んでの性教育バッシングにより性教育が進まないこと、生殖中心の考え方で性交について触れないで出産の奨励をするちぐはぐな教育である点などを指摘しました。

 そのうえで、これからの教育として「共に学ぶ=共生の性」「快楽・共生の主体として生きる学び」「文化としての性」「多様な性」「産む産まないと自己決定できる性」など幸せにつながる性教育が必要だと語りました。

被害者にも加害者にもならないための性教育を

 次に、弁護士で二児の母であり『これからの男の子たちへ』の著者、太田啓子さんが「これからの男の子たちへ―被害者にも加害者にもならないために」というテーマで講演しました。自身の弁護士経験を通じて、社会がDV夫、モラハラ夫を養成していると感じていることや、性暴力の事件の多くは行為そのものを争うのではなく「同意した」「同意していない」で争われ、判決が出たあとも加害者が性暴力だと認識して反省していない状況があり、加害者のセックス観のゆがみを感じると指摘し、幼少期からの性教育の必要性を強調しました。また、教育や子育てについても大人が男らしさ、女らしさを誘導する場面も多く、ジェンダーバイアスが入り込みやすいと述べ、日本は性教育については教育的ネグレクトを受けているといってもおかしくないほど遅れており、被害者にならない自衛教育だけでなく、加害者を生まない包括的性教育が急がれると訴えました。

包括的性教育を進める行政に変える

 最後に2人の講師と、ゆいネット北海道副理事長で産婦人科医の長島香さんがトークショーを行い、3つのテーマについて語り合いました。

 1つ目は「性教育の必要性」。村瀬さんはAVそのものは否定しないが日本にはAVや動画しか性のモデルがなく、日常の性生活と違うということを教えられていないと指摘。小学生からそうしたコンテンツを観ている実感があり、その前にきちんとした性教育が必要と述べました。

 2つ目は「性教育はなぜすすまなかったのか」。個々の性を大事にすると困る、性を知ると性が乱れるとする政治家や宗教団体が阻害してきた経緯と、保護者の中にも「幼い子」にそんなことを教えないでという考えがあることを指摘。学校からの要請で外部講師を務めることがある長島さんは、本来は養護教諭や保健体育教諭が性や命の授業をすれば済むが、指導要領にないために外部講師が必要になる実態や、性教育を意識している教師がいるから講師として呼ばれるのだが、そこでも”使用しないでほしい言葉”を事前に注文されること、そもそもそうした授業自体が全くない学校もあることなど、「性教育格差」がある問題を示しました。

 3つ目は「これからの性教育」。3人から共通して、講演でのべたような教育をすすめるうえで教育行政をよくしていく、包括的性教育を推進する議員を増やすことが大事であり、性教育の中に命の安全教育も入れる必要があると語られました。

(「ほっかい新報」10月23日付より)